ICT活用教育実践例

医薬保健学域 薬学類(1)

この記事は、2013年にインタビューしたものです。

取組名『医療薬学教育におけるマルチメディア教材の活用』

  • 【授業名】医療における薬を学ぶIII(必修)、臨床薬学演習II(必修)

今回の取材にご協力いただいた先生をご紹介します。

■お名前: 清水 栄 先生
■所属・職名:薬学類 准教授
■年度:
2006年度~

Q1. この取り組みの対象学生は?

薬学類4年生が対象です。

Q2. 授業が2コマあるようですが、それぞれの担当教員を教えてください。

『医療における薬を学ぶIII』は木村和子先生が代表で、9名の教員が登録しています。『臨床薬学演習II』は私が代表で、10名の教員が登録しています。

Q3. この取り組みのきっかけや開始年度について教えてください。

1996年(平成8年)大学院薬学研究科に医療薬学専攻課程が設置された当時に、外注で社会人薬剤師用のe-learning教材を作成しネット配信を行うことから始めました。その経験を活かしつつ市販の教材作成ソフトを購入し、e-Learning教材作成を始めました。しかし、薬学の教員が考えているような教材がなかなかできないと悩んでいました。
そんな折、2004年(平成16年度)から金沢大学のICT教育推進の取組が始まり、教材作成支援を受け、応援して頂くことになりました。ほぼ毎年、支援を受けながら教材作成を継続しており、『医療における薬を学ぶⅢ』は教材数が25篇、『臨床薬学演習Ⅱ』7篇の教材を作成しました。(一部教材は重複利用しております。)

『医療における薬を学ぶIII』教材リスト
内用薬剤(1)(2) 坐剤
手技の説明を要する医薬品 服薬指導(1)(2)(3)
服薬指導(病院編) 来局者応需
無菌調剤(溶解操作を含む) 無菌調剤-IVH
疑義照会 調剤実習「散剤・顆粒剤」
処方(1)(2)(3)(4)(5)(6)
軟膏剤 調剤実習「錠剤・カプセル剤」
処方(1)(2)(3)(4)(5)
『臨床薬学演習II』教材リスト
手技の説明を要する医薬品 服薬指導(1)(2)(3)
服薬指導(病院編) 来局者応需
疑義照会

Q4. この取り組みの特徴や内容について具体的にお聞かせください。

調剤の実習は講義として教室でも実施しますが、1回の講義でマスターできるものではありませんし、学生全員が教員の手技を見られない場合があります。そこで、マルチメディア教材で予習し、講義で学び、不十分な部分を、再度、マルチメディア教材で学ぶという方法で確実な学習を目指しています。また、教員が薬剤師になるために教えたいことはたくさんありますが、講義は回数や時間に制限があります。マルチメディア教材を用意しておけば、講義以外にも学生は自学自習できます。さらに、教材はスライド形式で作成されていますから、教員は、講義の度に教材を作る必要がなく、この教材をそのまま利用あるいは編集加工して授業を行うことができます。つまり、一つの教材を作成すると、オンラインと講義で2度使えることになり、一つの予算で作成していますから、これは経済的にも大変メリットがあります。

Q5. 教材を拝見すると、実際の薬局で撮影されたようですが?

NPO法人「健康 環境 教育の会」が運営するアカンサス薬局の協力を得ています。このNPO法人は、金沢大学薬学部同窓会、石川県薬剤師会などから寄付を受け設立され、アカンサス薬局、北陸臨床試験支援センターなどを運営しています。(詳しくは、下記のホームページをご覧ください。)

このNPO法人を設立した背景の中には、改正学校教育法および改正薬剤師法により、薬学部では2006年(平成18年度)から6年制課程になり、それまでは、薬剤師になるためには4年制課程でよかったのですが、6年制で増えた2年間に学ぶことは多く、その差を埋めるため、現役の薬剤師に学習が必要になってきたことがあります。また、医薬分業化により、社会からより多くの薬剤師が必要とされていることもあり、子育てが一段落し、社会復帰を希望している薬剤師のための教育の場にもなりうると考えています。アカンサス薬局は、薬局としての業務だけでなく、6年制の学生や、すでに卒業した社会人薬剤師の教育の場でもあるわけです。教材作製ではアカンサス薬局薬剤師の先生方のご理解とご協力を得ております。

アカンサス薬局で撮影した教材

Q6. 学習管理システムの機能はどのように利用されていますか?

出席管理、予習・復習、資料配布、テスト、レポート提出、アンケート、成績管理など、単位認定に必要な情報を得るために、ほとんど全ての機能を活用しています。

Q7. ICT教育を導入されたのはいつですか?

2004年(平成16年度)キャンパス総合移転時から自然研で整備したドットキャンパスを配信マネージメントシステムとして利用し、作成したマルチメディア教材を利用していました。金沢大学にWebclassが導入された2005年(平成17年度)からはそちらに移行しております。

Q8. ICT活用教育の利用方法と効果についてお聞かせください。

特に顕著な効果は、学生がレポート期限を守ることでしょう。過去には、たまに「レポートを出しに行ったが、先生が留守だった」などという学生がいましたが、学習管理システムを利用するようになって以降、学生がレポート提出の期限をきっちり守るようになりました。さらに複数教員が分担してレポート評価を行うためには非常に有効です。 また、5年生になると附属病院、アカンサス薬局や市中薬局で実務実習を受講しますが、実習を受けるためには薬学共用試験センター主導の全国統一OSCE試験に合格する必要があります。この試験には金沢大学の教員のほかに外部の薬剤師も試験官になりますが、これまで3年間に不合格者は一人もいません。マルチメディア教材での学習が非常に効果的であると思います。

Q9. この取り組みを実施するに当たり工夫されたことはありますか?

臨場感のある教材とするためアカンサス薬局で薬剤師に協力をいただき教材作成を行いました。このほか毎年、FD研修会を薬学系で実施していますが、一昨年にはFD・ICT教育推進室から講師を派遣して頂き、学習管理システムの利用方法などをレクチャーして頂いており、アカンサスポータル利用の教員のスキルアップが図られていると思っています。さらにクリッカーの導入も年次進行で全学生配布が始まっております。

Q10. では、最後に、今後のご計画をお聞かせください。

具体的には4点あります。

  1. 教材の英語化(2011年度)
    英語化といっても、教材を”英語版にする”ということではありません。最近では、外国人の患者さんが増えていますので、病院、薬局窓口で正しく対応するために必要な英語コミュニケーション教育のための教材を石崎純子先生(准教授)、Henrik Pallos先生(准教授)が中心になって作成しています。単年度ですべての教材を英語化することはできませんので、継続したいと考えています。
  2. クリッカーの利用
    今年度から薬学部の1年生全員にクリッカーを1個ずつ持たせています。授業中に、スライドに表示された問題に即座に答えたり、教員は、学生の反応をリアルタイムで見ることができますので興味深いと思っています。現在の1年生が4年生になるまでにはこれに対応する計画で、その結果を見て効果や活用方法を検討する予定です。
  3. 現在の教材は、薬剤師になるための6年制薬学コアカリキュラム対応としては十分揃っています。しかし、現実には、医療現場薬局窓口ではいろんな患者さんへの対応があり、それぞれのケースに応じた対応を学ぶ必要がありますので、ロールプレイの教材をさらに増やしたいと考えています。
  4. 学外薬局実務実習の進捗状況管理としてWebclassを初年度の2010年度は使って行いましたが、指導薬剤師から使い勝手が悪いと言うことで2011年度は学生と教員間のみで使用しています。今後使いやすい機能の開発を学外薬局の指導薬剤師から求められています。これが急務かもしれません。

――お忙しい中、ご協力いただきありがとうございました。