ICT活用教育実践例

外国語教育研究センター

この記事は、2013年にインタビューしたものです。

『Kanazawa in Words & Photos』

  • プロのカメラマンによる写真と金沢の四季折々のエッセーで学ぶ英語教材

今回の取材にご協力いただいた先生をご紹介します。

■お名前: 澤田 茂保 先生
■所属・職名:外国語教育研究センター 教授(外国語教育研究センター長)
■作成:2010年度

Q1. この取り組みの対象学生は?

希望者は誰でも利用できます。

Q2. この教材を作成された背景やきっかけをお聞かせください。

近年、日本の大学には海外からの留学生が増えています。金沢大学やその周辺の大学でも、欧米諸国のみならず、アジアやアフリカ地域の学生が勉学のために金沢の地へとやって来ています。日本人学生が金沢について彼らに英語で説明する機会も増えていると思います。この教材では、金沢の都市やその伝統と文化に関することが比較的分かりやすい英語で語られています。この教材による学習が、そのような場面での一助となればと思い作成しました。また、金沢大学でノートPCが必携となり、e-Learning環境が整ってきたので、授業では学べない発展的な内容を自学自習できる教材が欲しいと考えたからです。
英語教育では、20年ほど前からPCを使った学習が始まり、当時は単体のCD-ROMで学習する方法がほとんどでしたが、その後のネットワーク技術の発達で、現在ではネットワーク上での学習に完全に移行しました。金沢大学の学生がもっているパソコンで大学のシステム(アカンサスポータル)を利用して学習できる教材を作りたいと思い、そのような形態に作成しました。

Q3. この教材の概要についてお聞かせください。

Kanazawa in Words and Photosは、金沢市在住のプロのカメラマンであるMark Hammond氏の写真と氏自身による四季折々のエッセーとで構成したものです。ユニットは、春についてのエッセーから始まり、春夏秋冬の順で進んでいき、途中に金沢の伝統と文化に係わるエッセーが加わって、最後にハモンド氏の金沢への思いで終わっています。ハモンド氏は米国東海岸の歴史ある都市Philadelphiaの出身で、趣ある金沢の四季の風情を慈しみ、また伝統と文化の中で力強く変化していく金沢を自分の第二の故郷として見つめておられます。
エッセーは語りかけるような口調でつづられており、高等学校までの英語教材にはあまり見られなかったような口語的な表現が多く含まれています。重要な語彙や表現には日本語訳を付けました。また、高等学校の学習事項を踏まえて、文法的に難しいと思われるような箇所には解説もついています。エッセーを読みながら、表現力を高め、文法知識を深める構成になっています。

『Kanazawa in Words and Photos』のメニュー画面

Q4. この教材の具体的な内容を教えてください。

この教材はリスニング教材としてもリーディング教材としても学習できるようになっています。まず、リスニングとして学習したい場合は、各ユニットのゲート画面で「音声を聴く」のボタンをクリックします。ハモンド氏自身の吹き込みによるナレーションが流れてきます。その後に、リスニングの確認問題が用意されています。問題は各ユニットに3問で、リスニング後の大まかな理解度を試すことができます。

リスニング教材の画面イメージ

また、リーディング教材として学習する場合は、各ユニットのゲート画面で「テキストを読む」のボタンをクリックすると、テキスト画面に変わります。テキストにある大切な語彙や表現には意味と解説が付いています。マウスのポインターを文字の部分にロールオーバーすると、テキスト内での意味の表示がされて、「さらに詳しく」のボタンをクリックすれば、詳しい解説が現れます。リーディング教材と勉強した場合も、その後に各ユニット3問の確認問題があります。

リーディング教材の画面イメージ

金沢大学のアカンサスポータルの学習管理システムで学習が進められるように組み込まれているので、リスニングやリスニングの確認問題をするときは、教材の画面上から直接移動することができず、一旦ポータルの画面に移動して、試験問題を選択しなければならないという難点があります。これは学習管理システムで学習者の成績を管理するために仕方のない選択でしたが、その代わり、今後この教材に関連した語彙などの確認問題を増やしていける、という可能性を持っています。

重要語句の表示イメージ

Q5. この教材は「誰でも学べる」ということですが?

そうです。この教材は特定の授業や、特定の学域・学類のために作ったものではありません。英語の教員として、金沢大学で学ぶ全ての学生に使ってもらいたいと考えています。

Q6. この教材の利用状況をお聞かせください。

現在は教材を作成したばかりで、より完成度を高めるために、リーディング担当の教員や私の授業を受講している学生に、この教材の使い勝手や内容を確認してもらっている段階です。
英語教育ではe-Learningだけの授業が可能と思われる方もありますが、私は「人は、人からしか学ばない」と考えており、授業では学習者と関わることがとても大切で、授業中にパソコンで学ぶことはあまりしません。しかし、パソコンを利用した学習というのは、場所と時間に縛られない学習活動が可能ですから、もっと学びたいという意欲のある学生にはとても有効で、さらに伸びると思います。この教材も、課外の補助教材として利用してもらうことを想定しています。
また、ほかの先生方に試していただくことで、金沢大学にはこのようにe-Learningのインフラが整っており、こういう教育手法がある…ということを知らせたいという気持ちもあります。

Q7. この教材を作成する際の工夫点をお聞かせください。

この教材は、単体のe-learning教材として閉じておらず、これは大きな特徴でもあるのですが、データベースを使った「編集可能な教材」です。教員が履修学生の学力などに応じてカスタマイズすることによって、より効果的な教材を作ることが(技術的に)可能です。つまり「進化する教材」なんです。
教室内で使用する著作物の使用は著作権法上の例外規定で著作者の許諾を得る必要がありません。しかし、どんなに良い外国語言語素材があっても、e-learning教材として使いたいと思ったとたんに、現在の法令では著作権法に抵触します。ちょっと直したら使えそうな英語素材があっても面倒な許諾の手続きが必要で、そのため現実的には自由に使うことができない訳です。できればこの教材はそういう風に縛らずに、学生のレベルに合わせて担当教員自身がカスタマイズできるような、そういう風な教材であって欲しいです。ただし、カスタマイズするのは大変時間がかかりますが…。

Q8. では、最後に、今後の計画や抱負をお聞かせください。

この教材がきっかけで、金沢大学でも外国語、とくに英語のe-learning教材を作ってみたいという教員が出てくれば…と思っています。金沢大学の英語教育では、日々自分の教育活動で必要な教材を作っている教員も多く、自分の素材を使ってe-learning教材へとつなげる下地はあると思います。
また、個人的には、アカデミックボキャブラリーの学習を促す教材やリスニングの定着を図るような教材が必要ではないかと感じています。外国語教育で教員が「一つ一つの単語を教える」というのではキリがありません。大学で必要な語彙学習は、英語の語形成の規則を踏まえて、英語語彙の仕組みを知ることです。そうすれば、先生に一つ一つ教わらなくても、自分自身で語彙を増やすことができます。それが本当に必要な知識です。人より余計に単語を覚えると言った学習は真の語彙学習ではありません。こういう学習がe-learningの学習を通じてできればと思っています。また、リスニングでは、授業でやれることは時間的に限られているので、リスニング授業で学んだことが学力として定着させるためには、どうしても授業外の時間で英語音声に触れる機会・環境が必要です。そういう学習環境を整えるものとしてのe-learning教材を考えています。

――お忙しい中、ご協力いただきありがとうございました。