ICT活用教育実践例

総合メディア基盤センター(1)

この記事は、2013年にインタビューしたものです。

共通教育科目『一歩進んだPC活用講座』(選択)

  • 「情報処理基礎」受講済みの学生を対象とした応用情報処理

今回の取材にご協力いただいた先生をご紹介します。

■お名前: 松本 豊司 先生
■所属・職名: 総合メディア基盤センター 准教授
■年度:2007年度~

Q1. この取り組みの開始年度は?

2007年度後期から始まりました。

Q2. この取り組みの対象学生と授業形態を教えてください。

「情報処理基礎」履修済みの学生が対象です。講義とe-Learningを用いたブレンディッド型の授業です。

Q3. この授業を始められたきっかけについてお聞かせください。

金沢大学では2006年から新入生のノートパソコン必携が始まり、「情報処理基礎」が必須科目となりました。しかし、学部によってはパソコンを使う機会が少なく、PC利用講座も少ないのが実情でした。学生アンケートからも、PCを用いた科目数は不十分であり、利用頻度が少ないという不満が見られました。
そこで、FD・ICT教育推進室の前身であるICT教育推進室のスタッフが中心となり、2007年度後期に「情報処理基礎」を受講済みの学生を対象に「一歩進んだPC活用講座」を始めました。受講者の学年制限がなかったこともあり、募集人数60名に対し、定員オーバーの申込みがありました。

Q4. 授業の概要についてお聞かせください。

2007年度は我々スタッフにとって応用的なパソコンの授業は初めての経験でした。そこで、スタッフそれぞれが得意とする技術をオムニバス形式で教えることにしました。学生が持っているパソコンにはOffice Professionalが入っていましたが、AccessやPublisherといったソフトウェアは「情報処理基礎」では教える時間がありません。しかし、研究成果をデータベースでまとめ、印刷物として編集する、ホームページを作るにはとても便利なソフトです。また、理系の学生は3年以上になるとTEXを使う学部もあるので、これも教えました。このほか、社会に出ても役立つソフトウェアのダウンロードの方法や、ファイルの圧縮・解凍の方法など、私たちスタッフが普段使っていて便利だと思う技術はなるべく教えたいと思いました。講義後のアンケート調査により、82%の学生から「非常に良かった」「良かった」と高い評価を得ました。また、講師陣の目標以上の技術を習得した学生が多くありましたが、一方で、扱ったアプリケーションの数が多すぎたため71%が「難しかった」と答え、その中の35%が「一歩どころか十歩進んだ難しさだった」という意見も聞かれました。教える内容に対して、受講生が多すぎて、スタッフやTAのサポートが不足だったことも反省点でした。
そこで、2007年度の反省を踏まえ、2008年度以降は講義内容を整理し、2008年度後期からは「PCスキルアップ3講座」として講義内容を分割し、「一歩進んだPC活用講座」、「情報発信リテラシー」、「ICT素材作成術」を開講することになりました。また、特任助教や教務補佐員、TAの応援を得て受講生の疑問・質問に十分対応できる体制にしました。

Q5. 具体的な授業内容について教えてください。

年度によって教える内容は異なりますが、これまでに作成した教材の一覧を見て頂くと分かるように、Officeのどのソフトでも使える共通の便利機能だけでなく、Power Pointの効果的な機能、例えば、今やビジュアルの時代ですから、文字だけの発表でなく、アニメーション効果や音を付けて効果的に表す方法や、オリジナルのテンプレートを作り、より引き立つプレゼンの技術などを教えます。また、社会ではPublisherとAccessといったアプリケーションが使えるととても便利ですが、学業や研究だけでなく、サークル活動や大学祭のときにも応用できると、学生の評判が大変良いものです。Officeのソフトだけでなく、フリーのソフトをダウンロードして描画技術を学ぶ授業もあります。
この授業の特徴として、3回のグループ発表の機会を設けています。授業で学んだ技術を使って、毎回のテーマに応じてグループで課題に取り組み、まとめて発表します。また、発表を教員が評価するだけでなく、学生同士にも評価してもらう「相互評価」を行い、学生間に刺激を与え、学習意欲を増加させる取り組みもこの授業の特徴と言えるでしょう。

これまでに作成した『一歩進んだPC活用講座』の主な教材
Office_Web_Apps Wordビジュアルコンテンツ作成その1
ムービーメーカーによる動画作成 GIMPによるロゴやアニメーションの作成
Publisher2003,2007 その1 GIMPによる画像の加工とその応用
Publisher2003,2007 その2 PowerPoint2003,2007 応用 その1
Access2003,2007 入門 その1 PowerPoint2003,2007 応用 その2
Access2003,2007 入門 その2 Word2003,2007 応用 その1
Access2003,2007 入門 その3 Word2003,2007 応用 その2
Excle2003,2007 応用 その1 Word2003,2007 応用 その3
Excle2003,2007 応用 その2 Office2003,2007の便利機能 その1
Excle2003,2007 応用 その3 Office2003,2007の便利機能 その2

Q6. 学習管理システムではどのような機能を使われていますか?

まず「予習」です。予め準備した教材を学習管理システムにアップしてあり、予習してきたことを前提に授業を進めることを学生に知らせてあります。教材はPowerPointで作成していますが、予習用はノートに解説が書かれています。次にこの教材を講義で使います。授業の終わりには課題を出します。授業を十分に理解していないとできない課題ですので、教材は復習にも使われます。アクセスログを確認したところ、課題がある回は平均2.7回閲覧していましたが、課題の無い回は平均1.1回、つまり授業だけでした。
特に会議室の機能は、グループ活動で活躍しています。金沢大学は、角間地区、宝町地区、鶴間地区と校舎が分かれています。同じ角間地区でも敷地が広く、授業の都合で学域・学類が違うと集まるのが大変ですが、会議室の機能を使って、データの共有やディスカッションに利用します。グループの中には、時間を決めてチャットのように利用していた学生さんたちもあったようです。この他、レポート提出や出席管理、連絡など、一般的な機能も使います。

Q7. この授業を継続するにあたって、工夫やご苦労はありましたか?

学域・学類によってパソコンの使用頻度が違うだけでなく、個々人のスキルの差が大きいため、教材作りや授業の進め方には苦労しています。特に、この講義を始めたころは、いわゆる「未履修問題」があった頃で、情報を学ばずに入学してきた学生さんもいました。
教材の内容や講義の進め方については、毎年、受講生にアンケートを取っており、受講生の意見を反映させながら改善しています。また、これらの経験で、文系・理系・医薬保健系で学ぶ内容をより充実させた方が良いことがわかり、現在では「〇〇系のための情報処理」という三講座を増やしています。教材はOffice 2003からOffice 2007、現在はOffice 2010対応へと編集し、新しい機能を取り込んで使っています。
また、TAの学生さんは、なるべくこの授業の受講者にお願いしています。その方が、より内容を理解して、授業の進行に合わせて受講生のサポートができるからです。

Q8. 「グループ発表」についてもう少し詳しくお聞かせください。

まず、グループのメンバー構成ですが、学域・学類、学年が偏らないように、私が決めています。グループで作業するという経験は、お互いに授業間内容を理解する上で刺激になりますし、社会でとても役に立ちます。普段、あまりほかの学域・学類、学年の人と交流がない人には、友人作りにも役立っているようです。
次にテーマですが、大きなテーマは私が示しますが、具体的なタイトルは学生さんたちが決めます。例えば「授業に使えそうな教材」というテーマでは、「分かりやすい光合成教材」や「高齢者のためのパソコン教室」といった作品を作ったグループがありますし、「大学紹介」のテーマでは「学生目線の新入生のための大学紹介HP」や「大学映画祭の企画」「大学を舞台に缶けり大会」「大学大運動会」「学内24時間耐久鬼ごっこ」など、どれも楽しそうで、授業で教えていないスキルも自分たちで探して存分に使い、自分たちの企画をアピールしていました。
また、グループ発表では、学生さんがお互いに評価しあうことにしています。これも学習管理システムの中の機能を使っていますが、我々教員より、学生同士の評価の方がシビアで、コメントにも興味深いものが多いのには驚きました。

Q9. この授業の効果はどうでしょうか?

2008年度の最終アンケートの結果を見ると、「講義内容は情報処理基礎より一歩進んだ内容でしたか?」に対し、「一歩どころか大いに満足した」「一歩進んだ内容だった」が78%でした。次に、「グループ課題は有益でしたか?」に対しては、「非常に有益であった」「有益だった」が82%、「この講義は、今後の学生生活や卒業後の社会生活に役立つと思いますか」に対しては「大いに役立つ」「役立つ」「少し役立つ」を合わせると85%の回答でした。また「皆さんのITスキルは、受講前を「0歩」とすると、何歩進んだと思いますか?(上限10歩)」の質問では、平均すると「4.7歩」になり、授業のタイトルである「一歩」より効果があったと思っています。
さらに、コメント欄を見ると「後期の授業で一番良かった」と書かれているものもあり、中には「この授業で習ったことを活かして、ほかの授業で発表したら最高点を取った」という嬉しいものもありました。授業ではたまに、途中で来なくなる学生がいるものですが、この授業では放棄者はいません。
このほか、「パソコンが超苦手」と言っていた文系の学生さんが、この授業をきっかけにスキルを上げ、マイクロソフト オフィス スペシャリスト(MOS)に合格しましたし、第1回 JSiSE(教育システム情報学会)学生研究発表会 北陸大会(2010年3月1日)ではこの授業の受講生2名が1グループとして発表し「優秀賞」を受賞しました。

Q10. では、最後に今後の抱負などお聞かせください。

現在、私の科研(基盤研究(C)課題番号21500930:コンピテンシー養成を目標に掲げたアウトカム評価システムの実証的研究)でグラフィック表示を使った評価システムの研究が進んでいます。これは図1、2のグラフを学習管理システムLMS(WebClass)で表示することにより、学生の学習意欲を刺激させる仕組みとなっています。図1には昨年度のこの授業の実績として平均値、最大値を表示させどの程度自分の能力が伸びるかの見通しを与えて、右図には授業の進行に伴い、取得した能力が積み上がって表示される仕組みになっており、学生に学習した効果を実感させます。また、図1の下部にある“これまでのあなたの実績を表示”ボタンを押すと図3の学生生活(1~4年間)の能力の積み上げが表示されます。これは学習管理システムLMS(WebClass)のデータベースから指定された“評価項目”に関するデータを抜き出し表示しているもので、将来は“大学の教育の質保証”を目に見える形にする応用が考えられます。

この機能を平成23年度後期には「情報科学B(講義のみの授業)」、「文系のための情報処理(グループ実習を伴う授業)」、「一歩進んだPC活用講座(グループ実習を伴う授業)」で使い評価していますが、現在のところ授業開始時に行う“知識調査テスト”で50点以下の低い成績を取った学生が確実に成績を伸ばしており、“学習の仕方がわからない”という学生の支援に効果が見られることが分かっています。今後は、成績の優秀な学生をさらに伸ばす“適応型学習支援”を授業に取り込む実践型研究をより進めて、そのノウハウを金沢大学の教育に反映していきたいと考えています。

――お忙しい中、ご協力いただきありがとうございました。